夜なんて明けなければいい

部屋の明かりを点ける。この部屋は今日の終点。ここから先は、もうどこにもつながっていない。今日はもう何もしなくてもいいと思うと安心する。ようやく、自分だけの時間が訪れる。

 

眠るのが怖い。このままこの夜がいつまでも続いて、明日なんて永遠に訪れなければいい。そうであったら、この人生はどれぐらい楽だっただろう。眠るという行為は、今日という時間を諦め、新しい一日を始めるという残酷な行為。

 

雨はその残酷さを和らげる麻酔。今日発した音と明日発する音の間を雨音が流れ続けて、朝と夜の境界線を曖昧にする。乾ききった絶望がほんの少しだけ湿る。雨の柔らかさだけが救いだった。

 

明日なんて永遠に訪れませんように、眠ったら二度と目を覚ましませんように、目を覚ましたら世界が終わっていますように、夜なんて明けませんように、そんなことなんてわかりきっているのに、いつも祈るように電気を消して、当たり前のようにまた朝が来る。夜明けとともに腹の底に不安とも恐怖とも言える感情が生まれて、呼吸のたびに腹に入った空気がその感情に触れて、剃刀のように呼吸ごと腹の中を抉る。

 

夜明けは列車の中で迎えるものだけでいい。ブラインドを開けると、根府川の海の上に、完璧な夏の日を予感させる太陽が浮かんでいるのが。あるいは瀬戸大橋の上から、きらきらひかる瀬戸内海のうえの島々が過ぎ去っていくのが眼前にある夜明けだけがあればいい。