クーペロセラス

おとなになると、きいたことがない言葉でも、いままで聞いてきた言葉たちとの類似点を探し出してきて、それが何に近い概念なのか探ろうとする。anatidaephobiaならphobiaがつくからなんかの恐怖症だと思える。だからフシクジラをクジラと、ツマグロをマグロと、シロワニをワニだと思うのは別におかしなことではない(ちなみに、これらはすべてサメである。ずいぶんと厄介な生物である)。

上野駅のなかにある自然科学系の雑貨屋には、原生生物や古生生物のフィギュアが並べられた棚がある。サメにクジラに恐竜にとあるなかで、見たことのない形の生物に心を惹かれた。アンモナイトやオウムガイのように、巻き貝状の形をした殻から左右ひとつずつの目とたくさんの触手が出ているのだから、それらに近い生き物であることはたぶん予想できる。しかし最大の特徴は殻から左右対称のいくつものトゲが出ていることで、最近古生代の生物の本や生物学の本を読んだけれど、そんな生き物はどこにも見たことない。だいたいのものがインターネットや本で見られるようになった今、ひさしぶりに「画像でも見たことがない形状のいきもの」を見たような気がした。

いったいこれはなんという名前の生き物なのだろう、そのフィギュアについた札を見ると「クーペロセラス」と書かれている。

クーペロセラス。

全くつかみどころのない名前。クーペ/ロセラス、なのか、クーペロ/セラスか、それともクー/ペロセラスなのか。いや、どこも切らないで「クーペロセラス」と捉えるのが正しいのか。

とらえどころのない名前と、初めて見るかたちのもの。眼の前にある「これ」がいったいどういうものなのか、自分のなかの知識のデータベースがほとんど役に立たない。おそらく子供の頃にはこういうおどろきで溢れていた。おとなになって自分のなかの知識が増えていくにつれて味わうことのできなくなった、全く見たことのないものに触れる感覚をひさしぶりに味わったような気がする。

ネットの情報が信頼できないとはいえ取り急ぎ調べられるのはネットしかない。しかし英語のウェブサイトまで広げてみても、ベルム紀後期の海中に存在した全長12cmほどのオウムガイの仲間で、化石がテキサス州で発見されたということぐらいしか情報がない。日本語はともかく、たいして英語の情報があるわけでもない。目下一番の謎は、何故CollectA社はこのマイナーないきものをフィギュア化しようと思ったのだろうかということである。

ちなみに、クーペロセラスは“cooper’s horn”という意味らしい。クーぺr/オセラスが正しいのかな。