ノコギリエイはノコギリザメではない。なぜかというにノコギリエイはノコギリエイであってノコギリザメではないからである。
マクセルアクアパーク品川の年間パスポートを買ったので、たまにマクセルアクアパーク品川に行ってワンダーチューブ水槽の中に2時間座って帰るみたいなことをしているのだが、あの水槽に4匹もいるノコギリエイを正しくノコギリエイと認識している人を見たことがない。いや、ノコギリエイだと認識している人はわざわざノコギリエイだと口に出して言わない訳で、あれをノコギリザメだと思っている人がノコギリザメだね、と言うだけなのかもしれない。
しかし、舶来のサメに関する本を読んでいると、なかなかおもしろい記述を見ることができる。どうやら外国では日本と逆で、ノコギリザメがノコギリエイに間違えられるらしい。
ノコギリザメ類は、はなはだよく似たノコギリエイと、いとも簡単に間違えられることがある。水族館では大型のノコギリエイ類であるスムーストゥースソーフィッシュPristis pectinata*1と同様に、同じぐらい大きいノコギリエイPristis microdon*2とナローソーフィッシュAnoxypristis cuspidata*3によく出会う*4。一方、ノコギリザメ類は水族館では展示されていないため、知名度はあまり高くない。
(山口敦子(監訳), 『サメのなかま』(知られざる動物の世界; 11), 朝倉書店, 2013, 102p. 下線部ならびに注釈筆者)
原著はイギリスで出版されている。少なくともイギリスの水族館にノコギリザメはいないらしい。
そういえば外国のサメの本はノコギリザメ科の魚を紹介するとき、ノコギリザメではなくミナミノコギリザメ(ロングノーズソーシャーク)を持ってくる。ノコギリザメはだいたい日本近海~黄海・東シナ海あたりにしかいないのに対し、ミナミノコギリザメはオーストラリアにいるから西洋人にとってはまだこちらのほうが馴染みがあるのだろう。そして、シュライヒ、サファリ、コレクタ、モジョの4大生物フィギュアメーカー*5も、ノコギリエイは製品化しているけれど、ノコギリザメは製品化していない。
つまりあのノコギリみたいな長い吻を持ち、2つの背びれを持ったあのへんてこりんな形状の魚は、西洋の人にとっては真っ先に「ノコギリエイ」と認識されるのに対し、日本人には「ノコギリザメ」と認識される。英名がギターフィッシュという魚ですら、日本人は「サカタザメ」と名付けてしまうのだから、「ああいう形をした魚」を全部サメと呼んでしまうのかもしれない。いや、江戸時代には全然「ああいう形」ではないマンボウすらサメの仲間と思われていたらしいという記述も見かけた*6から、少なくともマンボウよりかはサメに近い外見をしているノコギリエイを見た時に瞬間的に「サメ」と認識してしまうのは、どうも昔から日本人がそういう人間だからなのだろう。
*1:「スモールトゥースソーフィッシュ」と記載する文献のほうが多数。
*2:2013年、P.microdonはP.pristisのシノニムとされ、更に2024年、P.pristisに対し「オオノコギリエイ」という標準和名が提唱された
*3:同様に2024年、A.cuspidataに「ノコギリエイ」という標準和名が提唱された(小枝圭太, 瀬能宏, 「Anoxypristis cuspidata(サカタザメ目ノコギリエイ科)の日本における記録と適用すべき標準和名および日本国内における生息状況」, 『魚類学雑誌』, 71(2), 日本魚類学学会, 2024)
*4:ちなみにマクセルアクアパーク品川で展示されているのはP.pristis, P.zijsron, P.clavataの3種
*5:私が勝手にそう呼んでいるだけである