始まりが明確に宣言される季節

冬が嫌いだから暑いことに文句は言わないようにしている。生活に支障があるレベルで暑くても。常日頃「冬は滅びるべきである」「冬は滅ぼさなければならない」「冬になると人生やめたくなる」「11月から3月は真冬」などと言っている人なりのけじめである。しかしまだ朝早い時間帯はまだまだ優しさを感じる。夏休みに甲子園球場に行くために乗った夜行バスが、新御堂筋を梅田に向かって走っているとき、淀川のうえでまだ昇ってきたばかりの太陽が夜行バスのあの分厚いカーテンを突き抜けて浴びせてきたあの日差し、あれが本当の夏だと思っている。だから夏が嫌いな人には申し訳ないが、まだ全然夏でもなんでもない。

夏は季節のなかで唯一、始まりが明確に宣言される季節だ。気象庁が梅雨が明けましたといったらすなわちその日からが夏なのだ。他の季節はじゃあ今日から春ですとか冬ですとかというのはない。基本的に季節の始まりは個人の主観に委ねられる。

しかしもし日本に梅雨というものが存在しなかったら、すなわちほかの季節と同じように、明確にこの日から夏、というのがなければ、きっと6月ぐらいから夏が始まるんだろうな、というようなことを考えていた。

春と秋が短くなった、というのは一部では肯定するけれど、一部では否定する。昼間は35℃近くまで上がるけど、18時ぐらいにはもう暗いというような日を「夏」として切り捨てていいものなのか。その早くなった夕暮れに秋がある。夏と秋の混ざり合った瞬間がある。

でもやっぱり夏が好きだから、夏の境目には敏感なのだろう。11月から3月はずっと冬だと思う。