一夜明ければ初春の仕事の続きをいたしましょ

五月の病気このかた引籠つてた姉もこの頃は不自由ながら家のなかの用が足せるやうになつた。で、いよいよ足ならしに外へ出ることになり、第一日は筋向ふのお稲荷さんへお詣りと話がきまつた。姉は附添ひに□□さんをつれて出かけた。すぐ戻るといつたのが思ひのほか暇がかかるのでどうかと気づかつてるところへベルが鳴つた。急いで玄関に出迎へる。××さんがあけた格子から競技に勝つた子供みたいに得意にはひりながら、境内をまはつてきた といふ。上出来だ。後につづいた□□さんが これおみやげに と手にもつた羽根をすこしあげるやうにして私にみせた。露店で買つてきたのだ。

中勘助『追羽根』)

 

先週の病気このかた引籠っていた私もこの頃は不自由ながら家のなかの用が足せるようになった。で、いよいよ足ならしに外へ出ることになり、第一日は通りの向こうの喫茶店へ昼飯と話がきまった。姉は附添ひに□□さんをつれて出かけた。すぐ戻ると思ったのが思いの外暇がかかるのでどうかと気づかってるところへベルが鳴った。急いで玄関に出迎える。××さんがあけた格子から競技に勝った子供みたいに得意に入りながら、土方定一の『日本の近代美術』を読み終えた と言う。上出来だ。後につづいた□□さんが これおみやげに と手にもった『ポケット六法』を私に見せた。Hontoポイント3倍クーポンで買ってきたのだ。