トロッコ列車では手帳は書けない(徳島紀行: 10)

「藍よしのがわトロッコ」の発車まで少し時間があったので、阿波池田の駅前をちょっとだけ歩いてみた。池田といえば未だに池田高校らしい。池田高校野球部を率いていた蔦監督は思ったより地元では神格化されていて、駅のコンビニには蔦監督をキャラクターにした地酒が売られていて、映画化もされている。

14時20分頃の阿波池田駅は忙しい。岡山行きと高知行きの「南風」が発車し、直後に徳島行きの「剣山」が発車し、最後に我々の「藍よしのがわトロッコ」が発車する。

「藍よしのがわトロッコ」は2両編成。トロッコ車両と普通の車両という編成で、1枚の指定席券でそれぞれの同じ番号の席に座れる、という仕組みになっている。普通の車両もその名前の通り青一色で素敵なのだが、やはりトロッコ車両のほうに乗りたいので、始発の阿波池田からトロッコ車両に乗る。トロッコ車両はボックス席になっているので、1人とか2人で乗ると強制的に相席になる。既に私の向かいにも一人旅のおじさんが座っていたのだが、基本的に外の風景を見ているので結果的に特に相席は気にならなかった。

発車するとすぐに車内販売が始まる。JR九州の観光列車みたいに大々的に改造した訳ではなく、普通の車両の端っこを便宜的に車内販売で売っているものの置き場にしている程度なので、車内販売のほうが席まで何回か回ってくる。まず最初は飲み物とスイーツ、次はスイーツ、最後にグッズ。逃すとチャンスがなかったり、じっくりと物を見られないというデメリットはあるけれど、席を立たなくていいというメリットはある。

徳島までの2時間半のうち、トロッコ車両に乗れるのは約2時間。今日は2Dという席を抑えてあるのだが、これが普通の車両でもトロッコ車両でも、進行方向を向き、かつ吉野川のある側に座れる唯一の座席である。しかし、吉野川の風景は阿波池田の側に向かって開けている場合が多く、上流側を向いたほうがきれいな写真を撮れることが多いと感じたから、進行方向を向いていることが一概にいいとは言い切れない。それに、午後の便だと、その上流側に太陽が来て逆光になる。だから吉野川をバックにきれいな写真を撮りたいのなら、午前の便に乗るのがいいと思う。もっとも、天気が悪い日はトロッコ車両自体に乗れないのだから、贅沢な要求ということになるだろう。

いつも列車に乗りながらその様子をノートに書いているのだけど、トロッコ車両ではそれが無理だということがわかった。走っているときは風が強くてページがめくれ、停まっているときは暑くて汗が紙に滲む。大人しく、吉野川の風を感じながら窓の外の景色を眺めていることにする。

石井を過ぎてトロッコ車両の乗車区間が終わると、あとは午前中に乗った特急「剣山」と変わらない。特急列車の速度で駅をすっ飛ばしていく。普通列車でも2時間で走る区間を、2時間半もかけて走る列車だが、最後の石井~徳島の間が特急列車の速度であることを考えると、阿波池田と石井の間はかなりというか滅茶苦茶遅い。普通列車で行くよりももっと、徳島線を堪能した、といえるのかもしれない。

トロッコ列車は春と秋に走り、8月中旬のこの日が初日。そして、秋といいつつクリスマスイブまで走るという。