曜変天目は人を狂わせる

曜変天目という茶碗を観に行った。天目というのは中国で作られた茶道で用いる茶碗のことである。曜変というのはその中で最も高級なもので、内側に星のように光輝く斑点が浮かぶものである。厳密に曜変天目と呼べるもののうち完全な形で現存するものは世界に3点しかなく、何故か全て日本にあって中国にはない。

これを唯一関東で所蔵しているのが静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)である。通年展示している訳ではないが、たまたま今出ている。そいつは「曜変天目の間」ともいうべき部屋にただそれだけで展示されている(他に展示されているのはこれを入れていた箱であり、実質これだけしか展示されていない)。専用の部屋のようなものが用意されているようなものは、だいたいの場合「鎮座している」と呼ぶのがふさわしい感じなのだが、ここの曜変天目については「ちょこんと座っている」と呼ぶのが似合う。何分小さいのである。思っていたより小さいし、展示している台も低い。

しかしいざ覗き込んでみると(「見る」より「覗き込む」という表現が近い)そこはやはり国宝指定、天下の名器に相応しく、黒地の中に比喩ではなく本当に光を放つ斑点が見込み(内側のこと)全体に点在し、まさに「掌の中の宇宙」と呼べるものである。斑点の周りは青く縁どられている。青と黒の白の宇宙である。久しぶりに見ていてドキドキするものを見た。

そういう貴重なものであるからもちろんこの美術館のスターであり、グッズも充実している。一番狂っているのはこの曜変天目のほぼ原寸大のぬいぐるみである。ちゃんとしたところがちゃんと作っているので生産数に限りがあり、1日10個限定というレストランの限定メニューのようなグッズになっている。そして一時期人気がありすぎて生産をストップしたこともあるというから、美術館だけではなくみんな狂っている。

他にもこの模様を再現した3万5000円もするアロハシャツや、11万円もするボールペンなどもあり、なかなか狂っている。しかしそれだけ人を狂わせるような魅力に満ちている。私は別の方向で狂っている、曜変天目がデザインされたTシャツを買った。模様を再現したのではなく、外側から見た茶碗が描かれているのである。茶碗の外見が描かれているTシャツを着ている人なんて外国人でも見たことがない(ひょっとしたら浅草あたりを歩いているのかも知れないけれど、私は最近浅草に全く行ったことがない)。面白そうなのでそのうちどこかに着ていこうかと思う。