DIC川村記念美術館で、意識と無意識のあいだを体験する

DIC川村記念美術館に行ってきた。東京駅から直通のバスが出ているのだが、客は3人しかいなかった。特別展をやっていないからかもしれないが、これはこれで大丈夫なのかと思う。

コレクションの中心は戦後アメリカの現代美術、抽象表現主義とかミニマリズムとかオプ・アートとかそのあたりで、そのあたりの美術が好きな人にはどストライクだと思うのだが、それがどストライクな人は多数派ではないだろう。今はフランク・ステラの展示が充実しており、フランク・ステラの作風がどのように移り変わっていったのか、たぶん今日本で一番よくわかる展示構成になっている。そして、作品に変な先入観を与えないためかもしれないが、作品に関する解説は一切展示されていない。

わざわざ今ここに行ったのは大好きなイヴ・クラインの青のモノクロームが出ているからで、ここには16×42cmというかなり小さいそれが展示されている。21世紀美術館で見たものが一番小さかったのだけど、それより小さい。日本の美術館だとあとは東京富士美術館豊田市美術館に青のモノクロームがあり、そうじゃない奴が東京都現代美術館とかいわき市立美術館にある(ただしこれはイヴ・クライン展で見た)。これらを巡礼するのも面白いかもしれないと思った。

ただどんな特別展をやっていようがいまいが、ここの一番の売りはロスコ・ルームと呼ばれる7枚のロスコの絵に囲まれた部屋である。この7枚の絵は一番小さくても縦166cmもあり、暗い赤色基調のトーンでまとめられ、誰が見てもロスコと答えるぼやけた輪郭線で囲われた四角形が描かれている。そして重要なのはWebページやパンフレットの写真よりずっと暗くて赤い。この暗くて赤い部屋で曖昧な輪郭線に囲われたデカい絵の中にずっといると、眠りに入る前の、眼を閉じてから意識が消えていくまでの、あの瞼と眼球の間の世界にいるような感じがした。この曖昧なぼんやりとした、何者とも捉えがたい形状が黒い闇に浮かぶのが、なんとなく瞼の裏に見える世界と似ている気がする。この世界が集合Aと補集合Aで出来ているとしたら、その集合と補集合を分ける線のうえがたぶんここなのだと思った。

この部屋にもちゃんと監視員の人がいるのだけど、ここの椅子にずっと座っていると、いったいどんな気分になるのだろうということを思ったりする。