トラフザメが動くまで40分待つことは容易い(広島紀行: 7)
縮景園前から乗った電車を八丁堀で降りたら、走り去っていった江波行きの電車のすぐ後ろから、観音マリーナホップへ行くバスがやってきたので飛び乗った。電車代を損したようにも思ったが、縮景園前から八丁堀は特別運賃で160円なので、舟入本町で乗り換えるより実は60円得していたと今になって気づいた。
このバスの終点、観音マリーナホップにあるマリホ水族館に行くのが広島まで出てきた理由のひとつだった。観音マリーナホップは広島駅からバスで40分ぐらい揺られたところにあり、ヨットハーバーが横にあるぐらいだから思っていたよりも地の果てにある。終点まで乗っていた客は私一人で、バスを降りると冷たい海風が吹き付ける。日曜日の17時過ぎなのに郊外のアウトレットモールをギュッと圧縮したような観音マリーナホップは閑散としている。日曜の17時なんて都内ではまだ人が減るのにはまだ早い時間である。日曜だから捌けるのが早いのか、それともいつもこれぐらいの人でなのかも、今日初めて来る身にはわからない。もしもう少し日曜の昼間でもこれぐらいの人出なら、今年の12月で閉館するのもなんだか頷ける気がする。フロアガイドを見ると「準備中」となっている区画も散見される。
マリーナホップの施設であるマリホ水族館も、このマリーナホップと運命を共にすることになっている。土日の16時までは混雑するとウェブページに書かれているが本当だろうか。それを信じて17時30分にやってきたのだが、空いている。規模としては30分もあれば見終わる大きさである。でもたったひとつの巨大水槽が単なる「遊園地の水族館コーナー」感を払拭している。ラグーン水槽と呼ばれるその大きな水槽の前はシアター状に座れる形状となっていて、サンシャイン水族館のサンシャインラグーン水槽を彷彿をさせるのだが、それもそのはずプロデュースを同じ人がやっている。中にトラフザメやエイが泳いでいるのもサンシャインラグーンと同じで、ダイバーとパフォーマンスするのもサンシャインと同じである。
その肝心のトラフザメは後ろを向いたまま微動だにしない。一旦外に出て売店でグッズを買い込んでからもう一度戻ってきたのに同じ姿勢で微動だにしない。閉館は19時で、あと40分ある。サンシャイン水族館のトラフザメの前で4時間座り続けたことがある自分にとって、トラフザメが動くまで40分待つことは容易い。30分ばかり水槽の前で後ろを向いたまま微動だにしないトラフザメを見ていたら、水族館のスタッフみたいな人と、カメラマンみたいな人が入ってきて何やら話をしている。たぶんもう館内に客がいないと思われているのだろう。しかし商材写真か何かでも撮るのだろうか。戻ってきたときには何人かいた客は、たしかにもうどこにもいる気配がない。
閉館まで10分というところで、トラフザメはようやく少し泳ぎだして、水槽をゆっくり半周したあとで、水槽の端っこの底に体を横たえた。たぶんここが「お決まり」の場所で、今日の営業はこれで終了なのだろう。それを見届けて水族館を出たら、タキシードとウェディングドレスを着た男女と、撮影のスタッフらしき数人の人たちが水族館に入っていくところだった。