ドリーという魚

ナンヨウハギという魚がいる。水族館のサンゴ礁を模した水槽には必ずと言っていいほどいるのだけれど、そう言われてもピンとこないかもしれない。しかし「ドリー」と言うとだいたい通じる。いや、「ドリー」と言わないと通じない。

この魚を水族館で見た日本人の反応はほぼ100%*1「ドリーだね」である。それは子供でも、子供に語りかける親だけではない。いい年したカップルまで「ドリー」である。言っておくが、今目の前にいるのはただのナンヨウハギであって、「ファインディング・ニモ」に出てくる「ドリー」ではない。

ファインディング・ニモ」にナンヨウハギを広めた功績があるとは思えない。寧ろ、「あの色と形をした魚」が「ドリー」であるという意識を植え付けた罪のほうが大きいのではないか、とさえ思う。

しかし水族館に来る人の大半は目の前にいる魚の名前なんてどうてもいいのである。魚なんて風景の一部でしかなくて、たまたま目についた魚が、自分が今までに見聞きした概念の何かと結びついて、それと判別できればきっとそれでいいのである。

あと、カクレクマノミを「ニモだね」という人を見たことは数え切れないほどあるけど、「マーリンだね」という人を見たことは一度もない。

*1:私が出会った中で