「魔女の宅急便」のクライマックスみたいな日

銀座伊東屋で買い物を終えたあと、いつもの通り丸の内の丸善まで歩いていったら、いつもより道に人が多い気がした。道を歩いている人が多いのではない。道に立っている人が多い。彼らは何かを待っているようにも見えた。今日何かここを通るんだっけな、と思っていると、突然5色の煙が空を横切っていった。

ああ、今日だったんですね。

すべてを理解した。どうりで上を向いている人が多い訳だ、と思った。鍛冶橋の交差点を曲がって新幹線をくぐり、線路を東京駅に向かって歩く。そして丸の内の駅前の広場が見えた時、「なんじゃこりゃ」という漫画のような台詞がとっさに口から飛び出した。

丸の内のあの広大な広場が、人でぎっしりと埋まっている。広場だけではない。KITTEの前の歩道から、丸ビルや新丸ビルのテラス、それ以外のビルでも窓という窓に人が埋まっている。その数軽く4桁ぐらいの人はいたのではないだろうか。

その人で埋まった広場の端にようやくたどり着いた頃、その4桁ぐらいの人が、寸分違わず一斉に、手に持っていたスマホを空に掲げだした。ちょうど山手線の神田のほうから新橋に向かって、5機のブルーインパルスが私の真上を飛んでいく。そのスマホは一台の例外なくブルーインパルスたちを追いかけてゆき、あるスマホは斜め上から真上を向き、またあるスマホは左から右へ傾いてゆく。広場やビルを埋めた群衆が、空を飛ぶ物体に一人の例外もなくスマホを向ける様は、「魔女の宅急便」のラストシーンが、もしこの現代に展開されたとしたら、きっとこんな感じになるんだろうな、と思った。

この時がブルーインパルスが上空を飛ぶ最後だということを、ここにいる私以外の全員が知っていたらしい。丸の内の広場を埋めていた人たちは一斉に散り散りになり、大多数の人が丸善の2階にあるオリンピックの公式ショップへと向かっていった。お陰で丸善がかなり混雑していて、いい迷惑を被った。