自分以外全員ピカチュウ

青色が足りない。そう思って酷暑日の外に飛び出した。横浜駅から山下公園まで、帽子も被らず、飲み物も持たずに歩いたから、多分そのうち死ぬ。夏の太陽が大好きで、別に37℃ぐらいなら何にも考えず夏の晴れた日に外に出てしまうのだけど、若いのは見た目だけで(未だに大学生に間違えられる)、身体能力は若くなく下手したらもう老境に入っているかもしれない。その認識と現実の身体のギャップを埋めることを実行に移さない限り、いつかそのうち死ぬ。

最も、「衰える」と言えるだけの体力があったかと言われると多分無い。音楽をやっていたから腹筋だけは人並みにあるがそれ以外はなにもない。身体を動かして気持ちがいいという感情が起こったことは一度もないからその辺を走ったりする程度の運動すらしたいとは思わないのだが、毎週銀座伊東屋から丸善丸の内本店までは歩くし、横浜駅から港の見える丘公園だとか、城ヶ島から三崎港とか、会津川口駅から道の駅かねやま(往復)ぐらいだったら普通に歩く。だから日常的に身体は動かしているが、「ただ歩くだけなら有酸素運動に入らないので『運動』ではない」と自称有識者はドヤ顔で言ってくる。

赤レンガ倉庫は典型的な観光スポットにしては珍しく割と好きなところで、ここまで歩いてきたら必ず寄る。買いたいと思うものは絶対に売られてはいないけど、見るだけなら楽しい雑貨屋さんがこれでもかと並んでいる。今年の7月にはついにビーサイドレーベルのお店までできてしまった。いつ来ても人が多いのが難点であるが、建物自体がそれほど大きくなく通路が狭いので、それほど人がいなくても人が多いと思ってしまう。そもそも商業施設として建てられた建物ではないので仕方がない。

夏のみなとみらいはピカチュウだらけである。赤レンガ倉庫の眼の前には超巨大ピカチュウが登場し、前を歩く人、すれ違う人、老若男女みんなピカチュウのサンバイザーを着用している。していない人はピカチュウのタオルを肩からかけているか、ブランケットのようなものを被っている。貴方も君もピカチュウ。自分以外全員ピカチュウピカチュウが特別扱いされるのが気に入らなかったのは、ピカチュウがあまり好きではなかった小学生の頃のひねくれた感情だった。みんなが好きなものが嫌いで、例えば読売ジャイアンツが嫌いだった。でも今はポケモンにもプロ野球にも特に興味がないのでなんとも思わない。