旅先に本は持っていかない

旅先に本は持っていかない。

旅先で本を読む、それは旅をするということではなく本を読むということだ。本を読むという環境を変えることでその本に対する印象が変わることに価値を見出すのなら、究極のところ読書という体験であって旅という体験ではない。読書のための遠出、とでも言うべきもので、距離の長短を別にすれば、例えばそれは自宅で読むのと、近所のマックやベローチェで読むのと、神保町のさぼうるやミロンガで読むので差異を生じるか、という問題と変わらない。

そもそも旅の途中で本に向かっている暇なんて1秒もない。私には単なる移動の時間、というものは存在しない。あるとしたらせいぜい超高層ビルに登るエレベーターの中ぐらいで、何百回も乗った東海道新幹線だって乗ればいつも外を眺めている。例えそれが夜の列車であっても。旅行は情報戦である。交通機関が止まって動かないのなら今後のために情報収集すべきだし、その行動の記録を取っておくことが次の旅に役立つ。

まあ、そんな偉そうなことを書いておきつつ、夜の新幹線は旅行のことを書いていたりすることもあるし、喫茶店に入ったら考えたことを手帳に書いていたりする。他の人が読書をするという行為の代わりに自分には書くという行為がある。

本は持っていかない。ただし必ず手帳は2冊持っていく。普段使っているミニ6サイズの小さいものと、旅行のことを書くための、バイブルサイズの手帳。だから本を持っていく余裕がない。そして、ホテルの夜など、ふと空いた時間はいつも何かを書いている。だから本に向かっている暇はない。