大塚国際美術館の正しいめぐり方(徳島紀行: 6)

まず大塚国際美術館は美術館ではなく「美術テーマパーク」であるという認識で行くべきである。そうすれば、3300円という入館料(2023年8月現在)も、やたら客に未就学児が多いのも、そして導線全長4キロという途方もない大きさも理解できるかと思う。

逆に言うと「テーマパーク」であるから、他の「美術館」よりは静かにしなければいけないという無言の圧力は少なめであり、小さい子供に初めて美術というものを触れさせるには好適であろう。なにせ集められているのは「名作」と呼ばれているものばかりであり、しかもそれが本物と同じ大きさで作られている。またあちらこちらに椅子が設置されているから、ちょっと歩いたらすぐ休憩させられることもできる。そして万が一のことがあっても、目の前にあるのは陶板画であって本物ではない。仮にトマトスープをぶちまけても本物が失われる訳ではない。

その所要時間であるが、9時30分の開館から17時の閉館までかかるぐらいの気持ちでいったほうがいいと私は思う。だいたい普通の展覧会、100点前後が集められた展覧会で1時間半前後かかるような、美術というものを見始めて1年ちょっとの私が「全部一通り見てみる」だけで5時間半かかったのである。範囲は西洋の絵画に絞られているとはいえ、古代ギリシャ・ローマ時代からブリジット・ライリーまでを収めるので、まさに「西洋美術史の教科書そのもの」であると言える。あなたは西洋美術史の教科書を1日で通読できますか。

その展示数は1000点を超えるから、とても1枚1枚じっくりと見ていくという通常の美術館の鑑賞スタイルは通用しない。一通り見た後で、興味のある作品や分野をじっくり見る、というやり方を個人的にはお勧めしたいのだが、そうすると鳴門あたりに1泊して2日ぐらいかけて回る必要が生じる。まあでも本当に美術が好きならそれぐらいしてもいいのではないかと思う。

しかし鳴門はここだけの街ではない。そこまでの時間を費やせないというのなら、入口で音声ガイドを借りて、その解説がある名作約100点を中心に観て回る、というのがいいと思う。しかしそれでも、半日ぐらいは見たほうがいいのではないか。とにかく、ここは、思っているものの2倍は大きい。

世界の名画の複製を展示している、ということは、裏を返すとここにしかない絵、というものが存在しないということである。だから、「名画を使ったグッズ」はあるけれど、「ここにしかない絵を使ったグッズ」というものはほぼない。おそらく「芦屋のひまわり」*1の絵葉書ぐらいしかないのではないのかと思う。ミュージアムショップ自体もそれほど大きくない。ここだけは普通の美術館と同じぐらいで、少なくとも東京都美術館のそれよりは小さい。

*1:かつて山本顧彌太が所持していたゴッホの《ひまわり》の一つ。1945年の芦屋空襲で焼失。