図録の図版の天地が逆だと?

キュビスム展で図録を買ったら「正誤表がありますのでご確認ください」と言われた。そういえば図録で正誤表をもらうのは初めてだなと思って正誤表を眺めていると、衝撃的な文言が書かれていた。

「図版の天地が逆」

そんなことがあるんかい、と思った。

山田五郎氏が氏のYouTubeチャンネル内でドローネーの絵を紹介するときに冗談っぽく「どっちが上かわからない」と言ったのだが、美術の専門家たちが慎重に慎重を重ねて作り上げる展覧会図録でさえこのようなことが起こるのであると思うと味わい深いものがある(ちなみに対象の絵はドローネーではない)。

キュビスムが対象を如何に描くかの追及であるが故にそれらは抽象ではなく具象画である、と言われても、分析キュビスムの行きついた先などはもはや抽象と大差なく、それを分けるのは本人の申告以外にないのではないか、と思う。当該図版も天地逆さだと言われなければ「ああこういう絵なんだな」と思ってしまうかもしれないような絵である。たぶん天地を判別するのはもはや署名の向きしかないのではと思い、一応ポンピドゥー・センターのサイトで高画質の画像を見てみたが、署名らしきものが見当たらない。

だから本物の絵が印象に残らなかった場合、この天地逆さまの絵が自分の中の「正しい」位置になってしまい、改めて観に行った際に逆に「正しい」位置を気持ち悪く感じてしまうかもしれない。

「この逆さになった絵」という単語から咄嗟に思い浮かぶのはもちろんカンディンスキーであると思う。ある日アトリエに来るとキャンバスにとても美しい絵が立てかけてあり、いったいこれは何なのかと思ったら上下逆さになった自分の絵だった、という有名なエピソードがある。もしかしたら、この図録でそんな体験が可能になるかもしれない。だからどの絵が対象かはここでは記さない。

キュビスム展に足を運んで、ぜひ図録を買って頂きたい。そして正誤表は一旦伏せて図録を眺めて、その後で正誤表を見て頂きたい。その後可能ならもう一度キュビスム展に足を運んでいただきたい。