みんな若冲が大好きだね。

美術館はだいたい夜間開館に行くか休みを取って平日に行くのだが、11月にオープンしたばかりの皇居三の丸尚蔵館だけは祝日の昼間に行った。完全事前予約制で売られるチケットは平日だろうが土日だろうが全枠完売だから、逆にわざわざ休みを取る必要もない。

全枠完売してしまう理由の一部を伊藤若冲の《動植綵絵》に求めるのは乱暴だろうか。現在行われている2つの展示の1つ「皇室のみやび―受け継ぐ美―」の第一期は8点が展示されており、そのうちの4点が《動植綵絵》だから「50%若冲」とも言える展覧会である。

みんな若冲が大好きだね。事実一番賑わっているのが若冲である。去年のメトロポリタン美術館展で来たフェルメールよりかはマシだったけど、みんな《南天雄鶏図》の前にいる(相対的に《秋塘群雀図》は空いていた)。しかも写真撮影が可能だからみんな写真を撮っている。中には超ちゃんとした一眼レフで写真を撮っている人までいる。私も若冲を見に来た訳ではない、といえば嘘になる。細かく書き込んでいるのはアンリ・ルソーみたいだと思った。でも私はそのいわゆる「超絶技巧」ではなくて、縦長の画面を対角線の方向に視線の導線を作っているのでは、ということばかりが気になっていた。

しかし小野道風は誰も見ていなかった。たぶん日本美術の本において「書跡」なんてほんの軽くにしか触れられていないし、何をどう見てよいのかわからない人が多いだろうし、どちらかというと「美術」ではなく「書道」のカテゴリの人が見ると楽しいものなのだろうと思う。

同時開催の「令和の御代を迎えて―天皇皇后両陛下が歩まれた30年」は天皇陛下ゆかりの品の展示なのだが、御即位に各方面から献上された品を見ているとたかだか5年前のものなのにすっかり東京国立博物館の近代美術の展示を見ているような気分になった。あれは明治のものです、と書いてあれば信じてしまうだろう。

展示はこれだけなので1時間ぐらいあれば十分見られる。というのもまだ第1期工事が終わったばかりで、フルオープンは3年後らしい。だからまだミュージアムショップの類もない(宮内庁三の丸尚蔵館ミュージアムショップがあったかどうかは知らない)。眼の前にある東御苑の売店ミュージアムショップの代わりのようになっている。

若冲を見に来た訳ではない、といえば嘘になる理由として、展示替え後にもう一度ここに行く予定でいる。