あくまでも「移動の手段」(広島紀行: 4)

福山から山陽本線の黄色い電車に乗って尾道で降り、この駅で観光列車「etSETOra」に乗り換える。今はまだ古くて黄色い電車ばかり走っているが、昨年からピンク色の新しい電車が走り始めていて、次に尾道に来る時は新しい電車に乗っているかもしれない。

観光列車「etSETOra」は広島と尾道呉線経由で結ぶ観光列車で、午前広島を出て夕方広島に戻ってくる。呉線というのはほぼ前線を瀬戸内海に沿って走る路線だから、海側は海を向いたカウンター席が多くなっている。

岡山方面からやってきたetSETOraは3分ほど停まってすぐに発車する。三原、忠海、竹原、安芸津、呉と停まっていくのだが、どの駅でも停車時間は1~2分で、観光列車でありがちな長時間停車・地元のおもてなしみたいなものはない。

その代わり広島行きの列車ではバーカウンターが営業していて、列車のオリジナルのカクテルや、スイーツやおつまみの類を注文できるうえ、事前に予約しておけばスイーツボックスなども食べられる。観光列車ではあるが、どちらかというと「乗ることが目的」の列車ではなく、「観光地までの移動の時間を盛り上げる」という点に力点が置かれ、主役は列車ではなく瀬戸内の観光地である、という印象を帰ってからプロモーションビデオを見ても思った。

呉線に乗るのも久しぶりだ。以前に乗ったときはロングシートの通勤電車で、この海っぺりの区間を体を反対側に捩って乗っていたので、こうやってクロスシートの車内から景色を見ることができるのはありがたい。しかしながら、今呉線を走っている電車はすべてクロスシートの車両に置き換わったから、窓側の座席さえ確保できれば車窓から海を眺めるのはそれほど苦労しない。

尾道から広島まで3時間もかけてゆっくり走る。山陽本線経由でも1時間15分、朝夕に走っている呉線経由の普通列車でさえ2時間30分弱の道のりを、である。海っぺりを走るところでは減速して一旦停止したりする。そこでは観光案内のアナウンスがあるのだが、別にアナウンスがないところでも突然徐行運転をする箇所がある。海沿いが多いのだが、これは観光のためではなく線路保守上行われているものであって、普通の列車でもこれぐらいの速度で走る。

呉を過ぎると列車の本数が増えるからというのもあるけれど、とにかく停まっている時間が長い。ドアを開ける駅ではすぐにドアを閉めてしまうのに、ドアを開けない駅では物凄く長い間停まっていて、何分間「かるが浜」という駅名標を見続けたのか覚えていない。呉の3つ手前の仁方から、ドアを開ける開けないに関わらず停まったり停まらなかったりを繰り返す。呉を過ぎると車内販売が終わっていて、だいたい乗車の興奮も冷めてきたところで、停まってばかりいる。ただ山陽本線と合流する海田市の近くまで、ひたすら海が見え続けていることだけが救いであった。