まだ読んでいない『読んでいない本について堂々と語る方法』について堂々と語る方法

『読んでいない本について堂々と語る方法』*1がようやく電子書籍になったのは大変喜ばしいことである。しかし最近電子書籍になったからなのか、12月上旬の「ちくま文庫・ちくま学芸文庫30%引きクーポン」の対象からは外れていた。そこでこれまでのhontoポイント3倍5倍溜めに溜めhontoポイントのうち、本体価格の30%にあたる分をポイントで買った。
読んだことのない本について語るために、まず「読んだことのない」とは何か、ということを定義する。そして、それは裏返せば「読んだことがある」ということになる。「ざっと流し読みしただけ」「目次だけを読んだ」「一度読んだが忘れてしまった」……果たしてこれらは「読んだ」と言えるのか。これらを「読んだ」というとき、本当に「全く読んでいない」=全く触れてさえいない本はほとんど存在しないのではないか、という。
そして「本」も、それ単体で存在するのではなく、人間の想像の中、あるいは彼らの属するコミュニティのなかで共有されるいわば図書館の中で、相対的に存在する。だから、ある本について会話をしていると思っている2人の人間は、実は別々の「本」をイメージしてコミュニケーションをしている。そのコミュニケーションにおいては、本を読んでいるか読んでいないかではなく、その本がその2人の関係のなかでどのような位置づけをされているかのほうが重要なのである。
つい最近も、まだ世の中に出回っていない本について「あの本は差別を助長する」という言説が飛び交った。もはや出版されていない本についても私たちは堂々と語ることができる。私たちが本を通じて何かを主張したい場合、「本」が存在する必要性はもはや存在しない。

*1:ピエール・バイヤール(著), 大浦康介(訳), 筑摩書房, 2016 <流>◯